へやいろシーン

トップ > 平成30年2月> 19日

マンションと子どものプライバシー

2018年2月19日「月曜日」更新の日記

2018-02-19の日記のIMAGE
 子どもの成長過程で、どんな部屋をどう与えればいいのかというのは、家づくり全体にも大きな影響を及ぼす問題です。子ども部屋を1階にするのか2階にするのか、大きいのか小さいのか、子どもが独立したらその部屋はどうするのか。それが決まらないと、他の部屋の配置や大きさも決まりません。しかし大事なことは、子ども部屋のことを考える前に、まず子どもをどう教育していくのかという、いわば教育方針を決めることだと思います。それが決まれば、自ずと部屋の考え方も定まってくることでしょう。  戦後の高度成長期、日本は欧米諸国に追い付け追い越せで近代化を進めてきました。もちろん、そのお陰で産業や経済が奇跡的な急成長をとげ、先進国の仲間入りをしましたが、その間、多くのことが犠牲になったのも否めない事実だと思います。おそらくこれからの21世紀は、そうした発展の陰で犠牲になった問題を、一つ一つ解決しながら、日本社会が成熟していく時代なのだと思います。そうした犠牲の項目の一つが、子どもの教育なのかも知れません。  右肩上がりの経済を支えるため、優秀な企業戦士が求められ、そのためにいい大学、いい高校と受験戦争に強制動員される。子どもは個性豊かに育つことよりも、まず勉強のできる子になることが優先され、教育ママやら塾やらが力を持つ。そのため子ども部屋というのは、何より雑音に邪魔されずに勉強できる部屋という意味合いが強くなったのだと思います。そこにうまくフィットしてしまったのが、戦後大量に供給されたマンションという住宅の形態でした。  当時、大量に建設されたマンションは、どれもほとんど似たり寄ったりの間取りをしています。あなたにも心当たりがあると思いますが、北側の玄関を入ると廊下があり、その左右が暗い洋間。廊下の突き当たりに南向きのリビングがあり、その間の左右がキッチンとお風呂・トイレ。このパターンです。そして、玄関を入ってすぐ左右にある洋間が、子どもの勉強部屋として設定されたのです。  この子ども部屋は、プライバシーを守るという点では、最高の部屋です。なにしろ玄関を入って、親の顔を見なくても自分の城に閉じこもることができるのですから。あとは、「勝手に人の部屋に入らないで」などと言って、鍵でもかけてしまえば親も手出しのしようがありません。外出するにも玄関に一番近い部屋ですから、誰にも干渉されずに飛び出して行けます。  マンションに限らず、一戸建て住宅にも、同じようなことが起こりました。やはり戦後の庶民の住まいとして大量に販売されたプレハブの分譲住宅では、子ども部屋は2階の一番いい部屋でした。玄関を入ってすぐの階段を上がれば、日当たりが良好で、風通しのいい子どもの個室。こういうパターンが実に多かったものです。  マンションの場合と同様、子どもは、親と顔を合わせなくても、自分の部屋に出入りでき、2階にあるぶんだけマンションよりもさらにプライバシー」が守られている環境に置かれました。  このような完全なる個室で、親は子どもの勉強の邪魔をしないようにと接触を少なくしていき、結局子どもが個室内で何をしているか全然わからないという状況がっくり出されていったのです。ひょっとしたら、あなた自身がそういう部屋で育ったのではありません か。  私はここで、そのような日本の住宅事情や子ども部屋の是非をとやかく言うつもりはありません。ある意味では、こうした状況もやむを得なかったのだと思います。ただ、これからあなた自身が自分の家をつくるにあたっては、もう一度子ども部屋について考えてみる必要があるということを言いたいだけなのです。何も考えず、「個室を与えればいい」などと思わないで欲しいのです。  子どもを1人の人間として尊重すれば、確かにプライバシーも大事です。しかし、親とのコミュニケーションを削ってまで、子どものプライバシーを守ることにどれだけの価値があるのでしょうか。このプライバシーとコミュニケーションのバランスをどこで取っていくのか。この課題を抜きにしては、子ども部屋のつくり方、そして家全体の間取りを語ることはできないでしょう。

このページの先頭へ