お父さんの居場所
2018年5月22日「火曜日」更新の日記
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- 最近の住宅展示場などを見ると、書斎を設けることがトレントになっているようです。スペースに余裕があれば、おおいにけっこうなのですが、そうでない場合、物置き化している書斎を見ると、もったいない気がします。
なぜ、書斎がうまく活用されないかというと、男性が家庭を、食べて寝る場としてしか使いこなせないためで、ただ形式的に書斎をつくっても、物置きになるのはとうぜんなのです。
では、書斎はいらないのかというと、そうともいえないと思います。書斎というりっぱなものでなくても、男の居場所は必要なのです。そのことを考えてみましょう。
父親は父親であるまえに、夫であり、ひとりの男です。父親という役目からも、夫という役目からも解放されて、男としての時間を使いたいときがあるはずです。
子どもが「ただいま」と、学校から帰ってきて、いつもはすぐ、キッチンの母親のところに顔を見せるのに、ときにはすぐ自分の部屋に閉じこもってしまうことがあります。おそらく学校でくやしい思いをしたのかもしれないし、帰りに友だちとけんかしたのかもしれません。
しばらく自分の部屋でひとときをすごすと、家族のところへ顔を出しにきます。
父親はどうでしよう。同じように、朝元気に勤めに出ていっても、気落ちして帰宅することだってあるはずです。会議で自分の意見がとり入れられなかったとか、上司にミスを指摘されたとか、いきなり人事異動を申し渡されて、くさっているのかもしれません。
父親は一家の大黒柱ではありますが、独立した人格でもあるのです。家族のだれからも邪魔されずに、ひきこもって泣く場所はあるでしょうか。
子どもたちにはそれぞれ個室があり、妻には主婦コーナーがあるのに、お父さんには個室がないのがふつうです。
妻たちは、専業主婦であるなら、夫が会社に出かけ、子どもたちが登校すると、家のなかにひとりになることができます。家中を走りまわっても、長電話をしても、だれにもとがめられることはありません。
高度成長期は、やみくもに働けばよかった時代です。現在はどうでしょうか。週休2日制が定着し、父親も家にいる時間が多くなりました。そのぶん、家族とともにすごす時間がふえましたが、2日間とも家族サービス、というわけにはいかないでしょう。自分だけの時間も必要だし、そのための場所も必要になります。
ワープロ入門の手引書と首っぴきになったり、パソコンでデータの整理をしたり、明日の会議での発表の練習など、家族には見られたくないこともあるでしょう。人はだれでも、ひとりっきりになりたいときがあるのです。
前田さんは、この春、部長に昇格しました。それを機に、茶の間のつづきの納戸を自分の部屋にしました。部屋との境は、引き違い戸で仕切られていて、いつもは茶の間と自分の部屋とはあけっぱなしにしています。
この戸がしまっていたら、ひとりにしてくれ、のサインなんだそうです。大きなため息をついたり、机につっぷして、そのまま30分ほど、じっとしていることもあるといいます。前田さんは「心の整理部屋」だと表現していました。
書類づくりは食卓でします。ですから、奥さまが手伝うこともあるそうです。
近いうちに、納戸だったときの壁紙を張り替えて、照明器具も取り替えて、リクライニングのできる大きなイスをおいて、明るい書斎にリフォームする予定になっています。
Kさんは、廊下の一部を自分専用のコーナーにしました。スペースはせいぜい2畳分。仕事関係の本や趣味の本、大好きなミステリーなどが積み重ねられています。古道具屋さんでも買わないようなオーディオセットがおいてあり、ここにはいるたびに、せっせとみがいています。奥さまには、この部屋を絶対に掃除してはいけない、と伝えてあります。他人から見れば(奥さまから見ても)むさ苦しい場所なのですが、自分だけの場所は心が落ちつく、とKさんはいいます。
自分の城、とはそういうもの。お宅でも、お父さんの居場所を考えてみてはいかがですか。
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