高齢者の住宅をどうすればよいか
2018年3月26日「月曜日」更新の日記
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- 1982年、ウィーンで国連の主催による高齢者問題世界会議が開かれた。
日本だけでなく世界的に高齢者の住宅をどうすればよいかが考えられ、高齢者問題国際合同計画として発表された。
それによると、大きく分けて2つの点が重要とされている。
1高齢者が可能なかぎり自宅で生活を続けられるように住宅を修理する。
可能な場合には住宅の出入り口や設備を高齢者の能力に適合させるように改造・改良する。
2そういうことのために公的資金を用い、高齢者の自立を促し、地域の伝統や習慣に応じた生活ができるようにする。
高齢者の生活にとっては1のような住宅が大切であり、そのためには2のような住宅政策を推進しなければいけないと強調する。
そのようなことは、他の国でもいわれている。スウェーデンには「老人住宅の基本的な方針」というものがある。
この方針は2つの柱からなっており、その第1は「老人は皆と同じ環境の中で普通の生活ができること」である。
要するに老人だけを集めて老人ホームのようなところへ入れてしまうのはよくないということ。
それが老人を社会から孤立させ、ボケさせ、心身機能をさらに低下させてしまうという。
だから通常の市街地で生活することが大切というわけだ。
こうした方針を「ノーマライゼーションの原則」という。
普通の人間と一緒に生活ができるようにしようという方向で、これは老人だけにかぎったことでなく、障害者などにもあてはまる。
健常者に比してなんらかのハンディを背負った人々に生活しやすい施設を提供しようとすれば、ある程度まとまった土地が必要となるため。
日本のように地価の高い国では郊外の辺鄙な場所につくることになってしまう。それが障害者や老人を1カ所に集めてしまうことになる。
要するに、老人や障害者が一般の街の中から隔離されることは、老人たちの人間らしい暮らし、つまり人権をそこなうということだ。
普通の住宅に住み地域の中で隣人と交流しながら可能なかぎり自立した生活ができるようにすることこそ、1人の人間としてその人格を尊重することになる。
それを隔離し施設に収容するのは、老人たちを人間としてみていないことだ。
その原則にはまた、若者などの異なったジェネレーションと一緒に住むことは生活を豊かにするという考えがある。
若者や子どもは老人に対して活気を与える。
子どもの若やいだ声を聞いたり活発な動きを見ることは老人が元気にすごす大きな要素だと考えられている。
だからイギリスでも西ドイツでもスウェーデンでも、老人ホームの近くには必ず幼稚園、保育所、小学校、児童図書館などを配置しなければいけない決まりになっている。
西ドイツを訪れたとき、老人ホームの隣に児童図書館があった。
老人ホームと障害者施設と児童図書館が一体となっているところもある。
その児童図書館では老人と障害者たちがボランティアとして働いている。
そして子どもたちにいろいろな話をして聞かせる。
子どもたちは目を輝かせて聞いている。また小学生の子どもたちが花をプレゼントに来たりしていた。
そういう若い人たちとの接触が老人に活気をもたらすのだ。
どのような理由からであれ、老人を孤立させてはいけないというのがノーマライゼーションの原則である。
逆に老人は若者に対して多くのものを与えうる。
それは人生経験であり、生きていく知恵である。
あるいはまた、老人は若い夫婦に子育てについてのアドバイスを与える。
若い人たちは老人のちょっとした買い物を助けたりする。
老人と若い人たちが一緒に生活することが必要だという考え方は世界的なものだが、それは必ずしも同じ家族の中での三世代同居や四世代同居でなくてもよい。
同じ地域に老人と若者が住んでいて、互いに交流し合えばよい。
親子でも他人でもかまわないわけだ。
「家」という意識がまだ強い日本ではちょっと机上の空論のように思えるかもしれないが、そういう現実は世界の各地でっくり出されており、他人同士の老人と若者が支え合って成立している社会像を考えてみることは、高齢者がどんどんふえるこれからの日本では必要不可欠といえるかもしれない。
老人のケアを社会的に行なうことについては、住宅や施設の面でも、社会のシステムや人々の意識面でも、日本では非常に遅れている。
だがそれを確立しないことには、高齢化社会の日本人は惨めになる。
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