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老人へのショック

2018年3月8日「木曜日」更新の日記

2018-03-08の日記のIMAGE
 子どもや主婦以上に引っ越しによって大きな影響をうけるのは老人である。いうまでもなく老人は長い人生を送ってきている。その長い人生のあいだにできた友だちや慣れ親しんだ地域がある。そこには、小さなことならなんでも気軽に頼んだり相談したりすることができる隣人や知人、互いに顔を見知っており冗談を言い交わしながら気楽に買い物のできる商店、自分の持病や体調をよく知ってくれている医師などがいる。また、家の窓から見える風景、近所の道路、商店街の様子などにも慣れており、それらが一体となって「住みやすさ」の感覚を形成している。このように自覚されている住みやすさも重要だが、居住する地域に無意識的に強い愛着をもっていることも老人にはある。このような場合に、老人をその地域から引き離すと大変なことになる。本人も納得し、まわりの人間も温かく迎え入れてくれているのに、長年住み慣れた土地を離れて新しい環境に入ったとたんに、元気がなくなり、やせ細ってしまう。動かすのも不安なほどに衰弱してしまい、おそるおそる元の土地に帰してみると、食欲も出て見違えるほど元気になったという老人の例がある。これなどは、本人も意識しない環境変化による潜在的なストレスが老人の精神を圧迫し、肉体的な症状を生んでいたと考えられる。老人を地域から引き離すという急激な環境変化が、心理的なストレスを生むのだ。もちろん多くの場合は、老人も自覚的で、慣れ親しんだ土地を離れたがらないのが普通だ。どちらにせよ、老人にとっては、住まいと住環境が変わってしまうということは、非常に大きなショックなのである。子どもや主婦など、地域と結びついて生活している者にとってもその影響は大きいが、精神的・肉体的に適応力が減退している老人が最も影響をうけやすいのである。街の風景に親しんでいるのと同様に大切なのが、友人や知人との交流である。親しい人たちとの話し合いがなくては、老人にとって生活は成立しない。元気ではいられなくなる。万一にも老人が引っ越す場合は、人間的交流が絶えないことが条件だ。また退職後、地域の中で、近隣の人々と交流しながら、コミュニティーの一員として生活していくためには、日頃からそうした関係をもっていなければならない。会社人間としてマイホームと勤め先を往復することで人生をすごしてきた多くの男性は、定年後、にわかに地域の人たちと結びつくことはできないことを知るべきである。老人住宅や老人ホームにしても、住み慣れた地域内にあることが望ましい。そうすれば友人や子どもたちが以前と同じように来てくれる。たとえ住宅は変わっても老人の心身の健康は保たれる。

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